カルピス株式会社(本社:東京都渋谷区、社長:山田 藤男)発酵応用研究所は、当社保有の微生物であるバチルス・サブチルスC-3102株(以下、「C-3102株」)が経口摂取後に生きて腸まで到達すること、その一部が発芽することで強いビフィズス菌増加作用を示すことを、オランダ応用科学研究機構(TNO)*1の協力によりヒト胃腸管モデル*2を用いた実験にて確認しました。この研究結果を2012年6月14日~15日に開催された腸内細菌学会で発表しました。
【背景】
「C-3102株」は、当社の微生物研究により自然界から発見された微生物であり、バチルス・サブチルスBacillus subtilis(枯草菌)*3に属する菌株です。これまでの研究により、「C-3102株」の芽胞*4の摂取は、腸内環境の改善を介して、健康維持に役立つことが明らかになっています。一方で、「C-3102株」が体内でどのように活動し、腸内環境に作用するか詳しいメカニズムについては明らかになっていませんでした。
【目的】
「C-3102株」の消化管内での活動と、腸内菌叢に与える影響をヒト胃腸管モデルで確認すること。
【試験方法】
実験には、オランダ応用科学研究機構(TNO)が開発したヒト胃腸管モデルを使用しました。
(実験1)「C-3102株」の芽胞を「胃・小腸モデル」に通し、通過後の生残率と発芽率*4を調べました。
(実験2)“「胃・小腸モデル」を通過した「C-3102株」”または“未処理の「C-3102株」(胃・小腸モデルを通過させず、発芽していないもの)”を「大腸モデル」に接種し、72時間後の腸内菌叢の変化を調べました。
【試験結果】
1)「C-3102株」の芽胞は、胃・小腸を通過した後も生きて大腸まで到達することが明らかになりました。
また、その一部は発芽していることがわかりました。
2)「C-3102株」には、ビフィズス菌増加作用があること、発芽した「C-3102株」には、より強いビフィズス菌増加作用があることがわかりました。
(実験1)「胃・小腸モデル」を通過した後も「C-3102株」の99%が生残していました。さらに、そのうちの8%が発芽していることが分かりました(図1)。
(実験2)“「胃・小腸モデル」を通過した「C-3102株」(発芽率8%)”は、“未処理の「C-3102株」 (発芽率0%)”よりも、「大腸モデル」におけるビフィズス菌増加作用が強いことが分かりました(図2)。
【まとめ】
「C-3102株」の挙動と腸内菌叢に与える影響について検討した結果、「C-3102株」は「胃・小腸モデル」を通過した後も高い生残性を示し、その一部は発芽することがわかりました。また、「C-3102株」には、ビフィズス菌増加作用があり、その作用は「胃・小腸モデル」を通過し、発芽した「C-3102株」を入れたほうが強くなることがわかりました。
以上の結果より、生きて腸まで到達すること、その一部が発芽することで強いビフィズス菌増加作用を示すことが示唆されました。
当社は今後も引き続き、さらに詳細なメカニズムについての検討を進めていきます。
*1:オランダ応用科学研究機構(TNO;The Netherlands Organization for Applied Scientific Research)
科学技術分野における応用科学研究を行うことを目的として オランダ議会によって1932年に設立されました。
欧州では最大規模を誇る総合受託試験研究機関です。
*2:ヒト胃腸管モデル
ヒトの胃・腸管を再現したモデル。ヒトが食べ物や薬を摂取したときに、胃・腸管でどのようなことが起きているかを調べることができます。
TNOが開発したヒト胃腸管モデル(TIMと呼ばれる)。「胃・小腸モデル(TIM-1)」は、温度、pH、消化酵素の分泌、代謝物の吸収、食物の通過時間などの条件が、ヒトの胃・小腸と同じになるよう、コンピューターで連続的にモニターされ制御されます。
「大腸モデル(TIM-2)」はヒト糞便を接種し、ヒト腸内菌叢が再現されたモデルで、温度、pH、代謝物の吸収などが、ヒトの大腸と同じになるよう、コンピューターで連続的にモニターされ制御されます。
*3:バチルス・サブチルスBacillus subtilis(枯草菌)
バチルス属の微生物の一種で、一般的によく知られているものでは、納豆菌も同種に分類されます。
*4:芽胞・発芽バチルス属の生活環
バチルス属は一般的な微生物と異なった生活サイクルを持っています。生育に適さない環境では、硬い殻に覆われた「芽胞」と呼ばれる状態で存在しますが、生息に適した環境になると、殻をやぶり「栄養細胞」に変化します。この現象を「発芽」と呼びます。
栄養細胞は生息に適した環境では増殖しますが、生息に適さない環境になると再び「芽胞」に戻る性質があります(図3) 。